夏だから・お化け屋敷の出来事

廃墟

お化け屋敷へ行こう

夏になると嫌が応にも「心霊系」として納涼な話題がネットやTVなどにもちらほら。それで思い出されたのが今回紹介する「お化け屋敷」にまつわる話である。

これは例によって超能力女房が高校生時分のことと聞いている。

女房が高校一年生の時、それはなぜか「地学部」という部活に入っていたそうな。その部活の仲間は地学以外のことでも時折は集まって行動を共にしていた。高校生にとって「地学」なんて、地学のことだけをやっていても間が持たないのであろう。

そこで持ち上がったこととして地元の遊園地にあるお化け屋敷に行こうということになった。単なる作り物のお化け屋敷であって心霊スポットでもなんでもない、遊園地のそれである。

そうして女房を含む地学部の一団がお化け屋敷前に集合した。

お化け屋敷の入り口でチケットを買い、2〜3人づつのグループに分かれる。

女房は部活の先輩とペアになったのだが、その時すでに部活の中では女房の「超常能力」について表立った話になっていたそうな。

「Yと組んだら絶対に何か起こるで!」(Y:女房のイニシャル)

この部活には地元の小学校、中学校から女房と同級生だったという人物も混ざっており、女房の超感覚が元になったと思われる摩訶不思議な体験談がもう普通に語られていた。

さて、そうして半ば冷やかしの言葉を投げかけられつつ、女房とその先輩はお化け屋敷に突入した。と言ってもそもそもが作り物のお化け屋敷ではある。

コンニャク部屋

内部はもちろん薄暗くおきまりの狭い通路になっていて、まあそこにはありきたりな仕掛けがいくつか施されている。

ところが女房に伴っている先輩は男性であるのだが、彼が大層に怖がりであったそうな。入場ほどなくして、彼はすでに「ギブアップ」宣言寸前の状態になったらしい。

「ギブアップ」というのは、客が怖さの限界に達して建物からの退去を望むことである。「ギブアップ!」と叫べば係員が来て外へ連れ出してくれるらしい。

さてさて、そうしていつしか「飛んでくるコンニャク」のエリアにさしかかった。

「飛んでくるコンニャク」というのは、暗い部屋の天井に糸で吊るされたコンニャクが用意され、それが客の顔に飛んできて「ブルンッ」と当たるという仕組みだ。これは確かに前触れなく突然に、顔面に異常な感触があるので人を驚かすには効果てき面だろう。

そして飛ぶコンニャクはもちろん人による操作、またはメカによって自動的に作動するようになっている。

そして「ビタンッ!」

「わぁ〜!わぁ〜!アわわわわぁ〜〜!」

コンニャクが、女房に同伴する先輩の顔を直撃した。もちろん、当の客にとってはそれがコンニャクであることはわからず、とにかく気色の悪い何かである。

「ギッ、ギブアップ!ギブアップ!ギブアップ!」

とうとう先輩の彼がギブアップして地べたにうずくまった。そしてほどなく、近くの退避用の出入り口から係員が現れた。

退避用出入り口の扉を開けた瞬間、そのエリアが明るくなり、飛ぶコンニャクの仕組みの全容が明らかになった。そのメカニズムは人が通ると反応する無人の自動装置のようだ。

もうひとりいた

「ハイハイハイ、もう大丈夫ですよ」

現れた係員はアルバイトらしい兄ちゃんである。かたわらでうずくまっていた先輩が立ち上がりながら・・・

「うわぁ〜、びっくりしたぁ〜、もういいです、もう止めましょう」

ギブアップの先輩はエリアが明るくなっただけで多少のひと安心である。そして「あれ」がコンニャクであったことが理解できたらしい。となるとむしろ平静を装いたくなるのが男心なのだろうか。ギブアップしながら何の強がりにもならないのだが、無意味に饒舌になる先輩。

「それにしても係の人はコントロールいいですねえ、コンニャク。暗いのによくわかりますね、客がいるところが・・・」

あのコンニャク装置は無人機で自動。コンニャク投射の係など誰もいるはずはない。

「はあ?」

ギブアップ誘導員の兄ちゃんがコンニャク装置の付いた天井の角を見上げた。

「うぁわッ!うわぁ〜〜〜〜ぁ〜!」

彼はそう叫び声をあげると一目散に通路を駆け抜ける。まだ稼働している各エリアをどんどん走り抜けるため移動中の客とはち合わせ、そのたびに客たちの悲鳴が上がる。

「わぁーー!「きゃー!」「ヒェ〜!」「ぅぎゃ〜!」

係の兄ちゃん、退避用のエリアへ出ればよいものを、気が動転してかアトラクションの客用通路を逃げ惑っているようだ。

「はあ?どうなってんだ?」と先輩。
「ああ、いや、んんと、見ちゃいけないものを見たみたい・・」と女房。
「まあいいや、とにかく出よう」と先輩。

二人は退避用の出入り口から裏側へ出て、それからとにかく建物の外へ出た。

「一体どういうこっちゃこれ?何があったんだ?」と改めて先輩。
「あれねえ、コンニャクのところにいたんよ」と女房。
「ええッ?!いたって、もしかしてコンニャクの係か?」と先輩。
「そう」
「えっ、えぇ〜〜!!、天井に張り付いていたあれって幽霊?コンニャク係と違うん!??」
「んんん、まあ言えばコンニャク係の幽霊・・・」

お化け屋敷を出た二人は残りの部活仲間と合流し、ことの次第を報告した。

「なっ、Yと一緒だとこんなことになるんやで、ウワッハッハ!」

他の部員たちは笑いながら口々に囃し立てた。それから部活仲間の一団は遊園地内をひと巡りし、帰りがけにお化け屋敷のかたわらを通った。

するとそこには一枚の張り紙。

「本日は都合により閉館いたします」

「うわッ、もう閉館しとるで!」

部員一同で爆笑しながら遊園地を後にした。

お化け屋敷再検証

さて、この話を要約するとコンニャク装置のところに、それはそもそも自動式であるのに、あたかも手動の係のようにして幽霊がいた、という話。そこに誰もいるはずはないと思っている係員がそれを見て驚いて逃げ出したということである。

この話と女房との関わりについて書いておこう。霊感が強くて幽霊など日常的に普通に見えているという女房だが、自分には霊感などないと思っている人でも女房のそばに近寄るだけで見えなくてよいものが見えてしまうということがあるらしい。

今回の件ではギブアップを助けるために来た係員と、女房に同伴した先輩がそうなったということのようだ。

ところで、ほかにいわゆる「アトラクションの人工的お化け屋敷」そのものについて女房曰く、幽霊・お化けといった類のものが多数住み着いているらしい。

それというのは、幽霊・お化けの類は「恐怖」「恨み」「悲しみ」「無気力」といった負の感情を好むらしく、お化け屋敷というのはそれが作り物であっても客の恐怖が渦巻いており、その種のものをおびき寄せるらしい。

だから、作り物のお化け屋敷と言って油断してはならないそうな。自ら好んで金を払ってまで「恐怖」を味わう、というのは、そもそもがどこか正常を逸脱した思考があるように思われる。うん、多分おかしい。

しかしながら、筆者個人的には「作り物のお化け屋敷」というものが全く怖くない。初体験は小学校5年頃であったと思うが、大層くだらなく怖くもないと感じたことがあってそれ以来全く興味がわかない。わかりきった作り物、それもそこそこにガサツな作りなものになぜ驚くのか、怖がるのか、それは今でも不思議でならん。

ちなみに、筆者自身は女房のそばにいても幽霊など見たことはないし興味もない。

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